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by seagull_blade

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Matrix

転職から4ヶ月が経ち、会社の環境にもようやく慣れつつあるという状況である。「会社の環境」と書いたのは、現在の仕事が完全に「プロジェクト単位」で動く会社であり、常に仕事の仕方は流動的で人員も内容も毎回変わるので、会社に慣れたとは書きにくいからである。こうした組織はマトリックス型と呼ばれる。同じような環境の企業で働いている方にはよくお分かりのことと思うが、ピラミッド型の組織でしか働いたことの無い方も多いと思うので、マトリックス形の組織について説明したい。
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会社組織は大きく分けて「ピラミッド型」「マトリクス型」に分けられる。組織は好むと好まざるとに係わらず、軍隊にその端を発していると考えられ、ピラミッド型が基本形をなしている。即ち、トップ以下それぞれの目的に応じた組織に分け、更にその下に機能別の組織を形成する形式である。軍事的組織ならば、トップ⇒三軍(陸海空)⇒師団⇒連隊⇒大隊⇒中隊⇒小隊⇒分隊であり、会社組織ならば、トップ⇒事業部⇒部門⇒課⇒班が対応しているだろう。組織によって色々異なるが、凡そこのようになるかもしれない。ピラミッド型組織の特徴は、「基本的に直属の上司が一人」であることが上げられる。肩書き(階級)が上の人間は存在するが、そこから斜めに命令が飛んでくることは無い。また、軍隊組織を管理可能なほど、大人数・大規模な組織に対応している。

これに対して、「マトリクス型」という組織がある。大きくは能力とランクで個人を分け、プールしておく。そして、その時々の必要に応じてプロジェクトチームを作り、目的を達成すれば解散して、またプールされるというのが基本的な形である。この「能力×ランク」というのが、「マトリクス」なのであろう。一時期のビジネス書などでは組織の理想形としてもてはやされていたが、近頃はそうした記事を見なくなった。実際にピラミッド型組織で動いてきた組織に、このマトリクス型組織を当てはめようとすると、なかなか機能しないということが解ってきたからだろう。

小中学生の頃に「グループ学習」という授業の経験はおありだろうか?第二次大戦後、GHQによる教育改革の中で取り入れられた手法なので、恐らく読者諸賢も経験があると思うのだが、実はあれが「プロジェクト単位での作業」を日本でも行うための布石だったそうである。社会科見学についてグループ(班分け)単位で「目的と調査内容」を決定し、メンバーのロール(役割分担)を決めて、社会科見学して、レポートにまとめる(プロジェクト遂行)。ここまでの作業は実社会でのプロジェクト遂行の予行演習という訳である。

現在、筆者が所属している企業では殆ど純粋にマトリクス型組織が運営されており、社員をプールしておいて、必要な際に必要な能力を持ったメンバーに対して面接を行い、プロジェクトを遂行し、完了後またプールされるという形で仕事を進めていく。3月に中途入社してから、現在のプロジェクトで4つ目である。プールされた状態から、常に「社内就職活動」を実施して自分でキャリアを形成していくという形式は、他の中途入社メンバーに聞いてみると、さほど違和感は無いということである。やはり外資系、特にアメリカ系の企業では当たり前のようである。しかしコテコテの日本企業から移った筆者にはなかなか新鮮である、というよりも、慣れるまで結構大変である。未だに慣れていないかもしれない。

この種の組織を運用する上では幾つかのポイントがあるようだ。最初のポイントは組織の流動性を高く保つことである。そのためには組織のメンバーそれぞれが自分のキャリア形成プランを少しでも意識し、指示を待つのではなく、自分の身につけたいスキルを得られるような仕事を自分で取りに行くということが当たり前のこととして企業風土に組み込まれていなくてはならない。先日、筆者と同時入社の人が3ヶ月にして辞めてしまったが、自分から仕事を得るための風土に馴染めなかったというのが主な要因であると思える。

2つ目はルールを明確にし、それをできる限り厳格に適用することである。例えば、「プロジェクトへの参加(assign)にしても、プロジェクトのマネージャが任命され、マネージャが必要な人間を社内から探し、面接をして、プロジェクトにアサインする。そしてプロジェクト完了時にはリリースする。評価は参加したそれぞれのプロジェクトマネージャが論議して、相対評価で決定する。」こうしたルールが守られていれば、アサインされる側はそのつもりで仕事ができる。特定の上司に縛られないが故に、あまり好き嫌いで評価が決まるということも無い。此処で恣意的にルールを曲げて、「何某は何某の懐刀」などとやってしまうと、メンバー間にチャンスを得ることについての公正さが失われてしまう。

そして最大のポイント会社は社員とその能力を信用するということだろう。ピラミッド型組織であった前職よりも、現在の方が遥かに仕事に対して要求される質、量ともに高くなっており、かなりきついことも確かだが、期待・信用されていることが判れば、モチベーションも高く保つことができる。マトリクス型組織では責任を上長、そのまた上長と辿って行くことが難しいから、それぞれの社員がクラスに応じた責任を取らざるを得ない。責任には権限も同時に伴わなければ、責任を取る気にもなれないから、やはりクラスに応じた権限も付与される。こうしたことが、社員には信用されているという実感に繋がると筆者は考えている。

メリットばかり書いてきたがデメリットも当然ある。まず、作業を創出できる社員でないとこうした組織とその方法についていけない。毎回毎回、初めての作業となるので、誰も完全に的確な指示を与えることはできないため、指示を待っていても何もできない。新入社員を含め、経験が無い、あるいは適正の無い社員にはこれは難しい作業だろう。
また、同時に毎回新しいメンバーと作業を進めていくことになるが、言い換えればこれはその都度信頼関係を新たに構築しなくてはならないということである。これはコミュニケーション能力に大きく依存するため、作業能力が高くてもコミュニケーション能力に問題のある社員を活用することが難しい。プロジェクト期間は決まっており、最小限の人間しか参加しないため、個々別々のフォローアップも難しい。

更に、会社に対する帰属意識やロイヤリティの問題がある。組織を流動的にすればするほど、横の連帯感や擬似家族的な一体感は生まれようもない。ここからは離職率の上昇や社員の精神衛生上の問題が発生しやすい。どちらも筆者が日々見て、感じていることである。退職挨拶のメールは頻繁に受信するし、相談もどこへ持っていったら良いかわからない。

また、この手の組織形態は大規模な組織での運用が難しい。会社のインフラとして組織運用をサポートするツールが用意され、確りと運用されていることが必要である。例えば、現職の会社では、社内向けのWEBサイトにより、現在の自分のステータスやスキルを登録しておき、それをマネージャがチェックしてコンタクトするというツールの利用方法がルールとなっている。

筆者は、目下のところマトリクス型組織で運営している現職の方が、ドライかつビジネスライクで気分は良い。また、自分のキャリア戦略に実際のキャリアを近づけることも、ピラミッド型よりはずっと容易である。その分リスクも高いのだが、そこはそれ、サラリーマンである限りは、それほど無茶なことにはならない。最悪のケースでもクビになるだけである。(そんなことも滅多に無いが。)もしも読者諸賢の中に、外資系企業などへの転職を考えておられる方がいれば、参考になれば幸いである。
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by seagull_blade | 2006-07-21 11:34 | career
2月の人事異動により、システム開発・サポート部署から、Web-EDI導入にかかわる仕事をさせていただくようになった。これまでも営業支援的な仕事は多く、また一営業マンとして活動することもあるが、本職はあくまでもSEで、大抵、プロジェクトリーダとして開発プロジェクトを抱えたまま営業活動をしていたが、今回はWeb-EDI導入をメインとする純然たる営業担当である。個人的には「営業適性」はあると考えているし、実際、1ヶ月、仕事をしてみて、前よりもストレスが増加したとか、体力的に厳しいということは無い。従って、目下のところ嬉々としてあちらこちら飛び回っている。
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Web-EDIというが、この言葉はあまりに意味が広い。特に日本においては、IT系企業やコンサル系企業が専門用語で自らを粉飾し、実際に惑わされる対象も多い。端的にまずEDIを定義しておこう。EDIとは「Electronic Data Interchange」の略称で、「企業間電子データ交換」と訳される。早い話が、コンピュータネットワークによる企業間のやり取りである。広義にはE-mailによる企業間メールのやり取りもこれに含まれる。ただビジネス用語としてのEDIは、郵便媒体・伝票・FAXなどの紙媒体削減や転記作業、入力作業の軽減によるリードタイムの短縮、また書き間違い、入力ミスなどを防ぐデータ確実性の保持などを目的とした電子データ交換を指すことが多い。(ここでは狭義のビジネス用語として使用する。)では、接頭辞Webが付くと何を指すのかといえば、お分かりのように、インターネットを媒介とした企業間の電子データ交換である。

さまざまな業界でこうした取り組みがなされている。たとえば銀行業界では、インターネット経由で社員の口座へ給与振込を行うサービスがよく知られている。各社員の給与明細を入力したデータをインターネット上の銀行サイトへアップロードし、銀行側はそのデータを元に自動的に口座振替を実施する。また振替の明細も銀行から企業へインターネット経由で渡される。この場合の企業側のメリットは、企業担当者がかつてのように振替依頼明細を書く必要が無く、日々管理している給与・勤怠系自社システムのデータをそのまま転用することでの、業務効率化、および、銀行からの明細チェックや口座振替のスピードアップであろう。銀行側のメリットは、窓口業務が不要になることでの業務効率化、伝票転記などの入力ミスを無くすことでの、業務精度向上、自動化による運用効率の向上があげられる。

これらの取り組みは、20年以上前から既に行われてきたが、この仕組みを広げる上での最大のネックはコストであった。大型のホストコンピュータ同士を専用回線で結び、その上でデータ交換するという選択肢しかなかった時代、豊富な資金力を持つ大企業だけがこれらの仕組みを構築することができ、また、これだけのコストをかけてもメリットを出すことができたのである。また、大企業が中心の業界が最も取り組み易い環境であった。中小零細企業ではROI(投資収益率)を云々する必要が無いほど、高価な仕組みであったことは言うまでも無い。

ところが、2000年代に入ってパソコンとインターネットが爆発的な広がりを見せたことで、話は変わってくる。低コストで普及率も高く、専用回線に比べて大きな遜色も無いほどの接続速度をもつ回線サービスが一般家庭にまで普及し、社会的なインフラとしてインターネットが完全に定着してしまった。一介のサラリーマンが書いているこの記事もそのインフラ上で公開されるという時代である。ここで漸く、中小零細企業でもWeb-EDIの取り組みを行い、メリットを享受し得る時代が到来したと筆者は考えている。

さて、大企業が中心の大手銀行業界はともかくとして、総合スーパーや百貨店などの流通業界は、大量の取引先を抱えており、伝票や取引形態も多岐に渡る。名の通った百貨店でも、零細企業が生産する商材を扱うことは当たり前であり、大量に仕入れる大企業との取引であろうと、零細企業と行う、10個20個の取引であろうと「企画→発注→ピッキング→納品→検品→支払」というビジネスサイクルは変わらない。またそれに付随する手間も同じである。むしろ、スーパーや百貨店においては中小零細企業との取引の方が総体としては大きい傾向にある。

大規模小売店側としては、取引に付随する膨大な作業(確認や発生する書類、伝票類の発行・整理・管理、商材の振り分け等)を何とか軽減したいというニーズは潜在的に大昔からあったはずで、ただ、あまりに多い商材を扱わざるを得ず、それゆえにあらゆる業種・業界をまたがざるを得ない大規模小売店は、EDIという発想をそう簡単には持ち得なかった。それが2000年代に入ってからのPCとインターネットの爆発的な広がりの中で可能となって来たのである。

とはいうものの問題は山積している。まず、業種・業界ごとの標準的なフォーマットの違いである。銀行の入金伝票と郵便局のそれが違うように、アパレルに必要な商品情報と化粧品に必要な商品情報は異なる。ましてや食品ともなればさらに必要な情報は異なってしまう。それらを統一的に標準化しないことには、それぞれの業界向け、下手をすると特定の企業向けのEDIになってしまう。これでは膨大な取引先を抱える大手小売などは、とんでもないシステム投資をしなくてはならず、コスト削減というEDIのメリットを完全に食い潰してしまう。さらに、この統一化をどこか旗振り役を担うのかという問題がある。「Win-Winの関係」などとコンサルタントは簡単に言うが、お互いにメリットを得るのだから双方が費用負担をするとして、果たして何パーセントの比率になるのか・・・etc etc。
次回は、日本国内と海外における流通業界web-EDIの差異についてまとめてみたい。
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by seagull_blade | 2005-03-21 14:25 | career

Isn’t It Communism?

Total Optimization…『全体最適』。SCMの背景にある考え方で、調達から販売、アフターケアまでの流れを全体として管理し、スループットの最大化をはかり、過剰在庫や販売機会の損失を極小化する考え方。複数の企業にまたがった業界全体でも、単一の企業内でも使用される言葉。(⇔部分最適)
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先日、ex_import様のブログ「addition subtraction」で『SCM』という言葉が取り上げられていた。 ビジネス書や日経新聞などにもここ数年盛んにSCMという言葉が載っている。SCMとはSupply Chain Managementの略語であり、供給鎖管理とでも訳せば良いのだろうか。要するに、消費者へ商品を届けるまでの流れシステムとして捕らえ、管理し、最適な供給を図るというもので、「全体最適」のより具体化した概念と言える。あるいは全体最適の達成された一つの理想形である。ポストされたex_import様の記事を拝読して、『SCM』から『全体最適』というビジネス用語を連想した。

さてこの『全体最適』というビジネス用語が現在あちこちで濫用されている。筆者の働く職場も例外ではない。反意語は『部分最適』である。読んで字の如く、部分最適とは、特定の企業・部門・部署(部分)にとって最適な環境をその特定の企業・部門・部署が作り上げるという意味である。『全体最適』という言葉が盛んに言われるのは、それぞれが勝手にそれぞれの最適な環境を作り上げることによって全体(業界・企業)の流れが妨げられるということが問題視されているからだ。従って論調としては「『部分最適』ではいけない。目的・目標を見据えて『全体最適』を考慮すべきだ」というものばかりが目立つ。(全体最適を『全社最適』と言い換えることも多い)

だが、本当だろうか?本当に部分の効率追求が全体にとっての不適になるのだろうか?「部分最適を追求すること」が即ち「全体最適を追求すること」という図式が成り立つことが、正しい意味での全体最適なのではないだろうか。数限りないビジネス用語の中でもとりわけこの『全体最適』という言葉は、嘘とは言わないまでも、無意識或いは恣意的に間違って使用されていると筆者には思える。例えばSCMにおいて『全体最適』の名のもとに特定の企業に大きな負担を強いる。(モノが売れないご時世、この高負荷を受ける企業は製造、卸など「商品の流れ」の川上に位置付けられる企業である)または、業務として止むを得ずに残業が多くなる部署に対しての、残業費カットの言い訳など。

筆者には『全体最適』という考え方が、20世紀最大の実験と言われた、社会主義的計画経済によく似ているように思える。つまり、5年・10年を予測し、計画的に経済をコントロールし、成長しようとする試みである。そして、ご存知の通り、全体最適どころか部分最適さえ達成できず、それぞれの部分が考えられないほどの非効率に陥り、これは見事に破綻した。そもそも一国の経済のような大規模なものを正確に予測し得るという事が甚だしい思い上がりであったし、我々は常に『全体最適』を意識して働く事が出来るような高尚さは持ち合わせて居なかったと筆者は考えている。

『全体最適』を強調しすぎることは、この「社会主義的計画経済」と規模こそ違うが相似形を描いているのではないだろうか。少なくとも『全体最適は善』、『部分最適は悪』とするような論調は、眉に唾して読んだほうがよさそうである。問題の本質は「部分最適の積み上げが全体最適とならないことがある」という点である。例えば極端なセクトイズムや最も影響力のある企業に何もかも合わせてしまうようなSCMにこそ、「全体最適」というビジネス用語を使って論評すべきであろう。

筆者は「全体最適を考えろ」と言われて、反論せざるを得ない場合(大抵は反りの合わない上司だったりするのだが)、「オートポイエーシスという言葉をご存知ですか?」などと言って問題を摩り替えてしまう。まるっきり門外漢の筆者には『オートポイエーシス』がどのような理論であるのかは正確には解らないが、凡そ次のように理解している。生命をシステム的に捉えた理論の一つで、自己創造という概念。生物の神経系が設計図無しに自己創造されていくのを参考に、最近では社会科学や組織論でも利用される。例えば、サッカーを例にとると、それぞれの選手は(作戦という大枠はあるものの)それぞれのポジションで最適な動作を己の判断で自主的に行っているだけである。ゲームの流れ自体は台本という設計書があるわけではなく、選手たちがそれぞれのポジションで最適な動作(自己創造)をすることで、チーム全体としては、最も効率的に「得点を得る」「失点しない」という目標を達成する。そしてゲームという設計書のない流れが出来上がる(自己創造される)わけである。大雑把かつ強引な説明ではあるのだが…。そして、議論を煙に巻くようにしている。(勿論、従って「部分最適の積み上げが全体最適になるようにあんたが努力しろ」と暗に言っているのだが。)

企業経営や業界の発展は全体最適を追求すべきというのは正しい。ただこの言葉の使い方を間違えると、計画経済の轍を踏むような気がしてならない。SCMなども正確な需要予測を暗黙の前提としていたりする。このあたりにも例の相似が見え隠れする。全体最適やSCMと言った言葉を濫用したがる経営者は、言葉の使い方が間違っていないか考えたほうが良いと思う。勿論、恣意的に言い訳として使用する分には何とも言い様がないのであるが。

さて2005年はどのようなビジネス用語が流行するのだろうか。

Fashion comes and goes, but style is forever.
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by seagull_blade | 2004-12-29 21:17 | career
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今から独立して商売、特に「仕入れて売る」という小売業を生業にしようと考えたとする。当然、資金集めや取引先の決定、会社登記をはじめとする様々な手続きをしなくてはならない。まずは、簡単でもよいから事業計画を作成しなくてはならない。事業計画書を銀行等の資金提供者に持っていったとする。様々な突っ込みが入るだろう。事業ビジョン。計画。そして、貸し手としては貸し倒れが最も恐いことなので、リスク管理も厳しく問われるだろう。小売において特徴的なリスクとはなんであろうか。

運転資金のリスク、事業計画そのもののリスクは勿論だが、小売業で最も恐いリスクの一つは「不良在庫」を抱え込むことである。仕入れたものの売ることが出来ず、倉庫に山積となった不良在庫。これは恐ろしい。INがあってOUTがない、StockはあってもそれがGainにならない。どこの小売業者もあらゆる方法を使ってこの状況を回避しようとしている。POSシステムを導入して、「売れ筋」「死に筋」を測定したり、徹底した在庫管理で、欠品⇒発注⇒検収⇒売場という流れを自動化するケースもある。これらは業務効率化など多くの意味があるものの、究極的には不良在庫を抱え込まないということを目的としている。

さて、不良在庫を抱え込むというリスクを一切負う必要が無い経営形態があると言ったら、信じられるだろうか。仕入れた以上、売れないというリスクは必ず発生する。そんなことはありえない。普通はこのように考えるのではないだろうか。筆者も流通系システム会社へ入社するまではその様に考えていた。だが、実際にそのようなビジネスモデルはあるのだ。やはり言わずと知れた「百貨店」である。

百貨店には「売り仕(うりじ)」という言葉がある。これは「売上げ仕入れ」の略語である。「消化仕入れ」とも言う。まさに読んで字の如しであって、これは「売上げた分のみ仕入れた事にする」という会計上のマジックである。つまり、商品を調達して売場に並べていても、売れるまでは卸側の在庫にしておき、売れた途端に大至急仕入れ計上を行い、同時に売上げを立てる。こうすることで、売れ残りの損失、価格下落による被害、品痛みなどのあらゆるリスクは、百貨店側にとっては消滅し、リスクフリーの経営が可能となるというものである。勿論このリスクはどこかが持たねばならない。当然この場合は御元やメーカが負うことになる。

「そごう」が破綻した際、新聞紙面にも「消化仕入れ」や「場所貸し」といった言葉が踊ったことを覚えていらっしゃる方もおられると思う。世論でも「消化仕入れけしからん」という風潮があった。確かに圧倒的に小売(百貨店)有利なこの仕入れ形態だが、それならば、なぜこのようなことが許されているのかを考察してみたい。

あらゆる物事にはプラスとマイナスの面がある。「売上げ仕入れ」の場合も考えてみよう。まず、百貨店にとってのプラスははっきりしている。不良在庫リスクを一切負わないということである。上述の通り、これには計り知れないメリットがある。売れ残り・流行遅れによる陳腐化・品痛みなどあらゆるリスクが解除される。いいこと尽くめのようだが、当然マイナスの要素もある。百貨店構造不況などと言われ、そごうを始め大手百貨店の苦境が話題となった時期があったが、このそもそもの原因は「ノーリスク」での仕入れをおこなったことである。「百貨店は場所貸しの不動産業だ」などと言われたそもそもの原因はここにある。

とはいえ「場所貸しの不動産業」という批判は単に「テナント」へ場所を貸与するというだけという意味であったが、これでは不動産業に対して失礼であり、浅薄な批判である。実際にはプロダクト・アウト(供給主導)の構造が崩れ、マーケット・インやカスタマー・インという構造に移行した80年代から流通業界は圧倒的小売主導になった。供給側(ベンダー)は本来、小売側が負うべきリスクを負ってでも店頭に品物を置いてもらうことに腐心し、その結果として、「売り仕」構造(元々あったが)が固定化されてしまった。

しかし、小売側の百貨店にも致命的な影響が出ている。全てのリスクをメーカで負うということは、百貨店側の企画・開発・販売の能力を相対的かつ総体的に落としてしまう結果となった。百貨店の構造不況のポイントはここにあると筆者は考えている。遅まきながら多くの百貨店ではこのことに気が付き、売り仕ではない「買取」の商品を増やし、自主企画商品や自社ブランドを創造し、リスクを取って能力を向上させるという方向に出ている。「三越グループ」の「脱百貨店」というスローガンもこのノーリスクでの商売が、構造的な低利益を生み出していることへの反省であろう。勿論、三越に限らず、自主MDをどこの百貨店でも進めている。

そごうの破綻は勿論、水島元会長による独裁的放漫経営も大きな原因だったであろう。しかし、リスク回避による仕入れ、ベンダーへの強度の依存という体質も、もう一つの致命的な原因であったと筆者は考える。

別段、この問題はそごうに限らない。どこの百貨店でも同様である。自社の企画力、マーチャンダイジング力を高め、月並みではあるが「他には無い」価値をつけていくこと。今のところ、それ以外に解決策は見出せないのでは無いだろうか。百貨店は「マーケット・インの構造」というベンダーにあらゆるリスクを負わせるほどの強力な立場を、別の方向に見出す必要を感じているであろう。その回答を見つけることも、価値の創造とともに最優先すべき経営課題である。
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by seagull_blade | 2004-11-17 22:12 | career
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第4回では『カスタマーイン』や『プロダクトアウト』をキーワードに業界の潮流についての紹介とSCM(サプライチェーンマネジメント:供給鎖管理)に少し触れた。マーチャンダイジング(MD)そのものには殆ど触れられなかったが、マーチャンダイジングはテーマがやや大きいのと筆者も勉強中なので、また先延ばしにさせていただき(申し訳ない)、今回は、EDIを中心に小売と取引先とのあり方を紹介していきたい。

EDI(Electric Data Interchange)は電子商取引と訳されることの多い、IT業界としては割と歴史のある言葉である。IT化が最も早く進んだ業界の一つに金融業界が挙げられるが、銀行のホストコンピュータと大口取引先との電子データによる取引が最も早く確立されたEDIの一つだろう。70年代後半から90年代前半にかけては、VAN(付加価値通信網)や高額な専用回線を使用し、更に業界毎の手順(プロトコル)を使用しており、ある意味でとても閉鎖的であった。だが、この4-5年の間にEDIも大きく様変わりしている。

EDIとは「電子商取引」であるが、では実際の「商取引」に使用される媒体は何かと考えると「伝票」である。見積書⇒発注伝票⇒受注伝票⇒納品伝票⇒検品伝票⇒売上伝票⇒請求伝票⇒振替伝票という一連のサイクルをコンピュータ上で実施するものである。従ってごく大雑把にいうとEDIは「電子化された伝票とそのやり取り」ということになる。メリットは比較的分かりやすい。「転記ミスの削減」「時間と人件費の削減」である。従って、どこの業界でも推し進めて行きたいものだったが、先ほど挙げた閉鎖的な環境が障壁となり、なかなか拡大しなかった。だが、Microsoft Windows95登場以後、急速に普及したインターネットによって、このEDIも一つのビジネスとして確立され始めた。

インターネットはオープンな手順・様式(プロトコル「TCP/IP」)を使い、爆発的に各地のネットワークをつなげた、ネット間ネット(Inter-net)である。これにより、業界どころか国境もなんら問題なく超えていける通信網である。同じようなサービスに電話もあるが、これは音声のみである。対してインターネットは「文字情報」「音声情報」「画像」をも含む表現力を持った。こうした基盤の確立が、EDIと結びついて誕生したのが、現在主流になりつつある、インターネットを利用した『Web-EDI』と呼ばれるサービスである。

Web-EDIを利用する側は「インターネットエクスプローラー」等のWebブラウザさえあれば、使用可能なものであり、また専用回線に加入する必要もない。これらのメリットを売りに現在、Web-EDIの拡大を進めている。そして、流通業界では小売主導(マーケットイン/カスタマーイン)の潮流により小売側がこれらのサービスを提供し、取引先を囲い込むという戦略に利用し始めている。即ち、このサービスを利用しなければ取引できないという形を取り、取引先のブロック化を図るという訳である。

また、こうしたEDIを取り入れることで、それぞれの企業の業務フローが変化する。或いは変化させざるを得ないが、大規模小売店側はさらに物流も含めたBPRサービスもあわせて提供している。BPRとは「Business Process Reengineering」の略称で、業務改革を支援するシステム或いは取り組みのことである。製造側・卸側はEDIに参加することで、こうした業務プロセスの見直しも図ることができる。また小売側にとっては卸側のレスポンスを高速化する(QR:Quick Response)ことで、店頭の新鮮さや、顧客の要望への敏速な対応を図ることができる。洋服を例にとれば売れ筋の色を分析し、すぐさまメーカや卸に対応させることが可能となる。

このように、本来は小売側とメーカ/卸側双方にメリットがあり、急速に普及すると思われていた。しかし、低価格(月額1万円~3万円)で参加でき、業務プロセスも見直すことができ、受発注も効率化できるWeb-EDIが、パイとしては大きい中小アパレルにおいては今一歩期待通りの広がりを見せていないのが現状である。なぜだろうか。

小売業界におけるWeb-EDIの仕組みとしてはNTTコミュニケーションズのd2s-eMP、富士通のコラボエージェント、伊勢丹データーセンターのIQRS.netなどがある。最も早く立ち上がったのはIRQS.netであるが、2004年現在でおよそ400社程度の参加となっており、伊勢丹のような大型百貨店の取引先としては少ないといわざるを得ない。

ここでやはり、アパレル業界・流通業界のIT化立ち遅れという問題がまた明確化してくる。実際、中小アパレルや小規模な卸の場合、専任のシステム担当者を置いている場合が少なく、総務担当者や経理、営業といった別の仕事を抱えていながら、「パソコンが詳しい」という理由で、システム担当者を兼任しているケースが多い。また、取引先の全てがWeb-EDIを実施する訳でも無い為、彼等にしてみれば、またしても入力する手間が増えるだけという負担感は否めない。逆にWeb-EDIを企画している大手小売業者にしてみれば、「メーカ/卸側の、それまでのVPNや手作業による受発注のコストが馬鹿にならないというニーズを拾上げて、コストも安く、操作も簡単なWeb-EDIを立ち上げたのに乗って来ないのは怠慢だ」という感想を抱きやすく、相互のメリットどころか、コンフリクトを生じやすい。

TVCFで盛んにE-MARKET PLACEを喧伝しているが、流通業界はまだこの程度である。それは逆に、こうしたサービスを提供する側からすると、一定以上のシェアをとることが出来れば、その仕組みを業界標準とするチャンスでもあるのだが。

次回は、仕入れについて小売側の理屈を紹介してみたい。
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by seagull_blade | 2004-09-08 11:45 | career
前回の『小売とマキャベリズム4』のコメントにて鋭いご指摘を頂き、またそれに対するレスポンスにて本編で記事にするといいながら、果たせていない。そこで今回はこれまでの整理を含め、ITから少し離れ、「インターミッション」として、記していきたい。
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【Q:コメントでのご指摘(I-watcher様)】
>「マーケットイン」と「カスタマーイン」の違いって、商品を供する企業の、業態の違いだけですか?ユニクロのように、百貨店が「カスタマーイン」の実現を目指すことは、そもそも業態として可能なんでしょうか。或いは、例えば伊勢丹ならオリジナル衣料の「BPQC」は「カスタマーイン」って呼べるのかな…
【Answer】
結論から申上げて、「業態の違いだけではない」となります。「カスタマーイン」とは、大きな小売業のあり方としての「マーケットイン」を更に発展させた発想と考えています。まず、この「マーケットイン」から考察します。

「マーケットイン」とは市場(market)から必要なものが引き寄せられる(pull in)という発想であり、これはそれまでの「プロダクトアウト」の反意語として出てきた言葉です。第二次世界大戦後の市場、殊に日本やヨーロッパなど、国土が戦場と化し、あらゆる生活物資が失われた場所・時期での生産活動/小売業では、消費者側のニーズは明確(なにせ何もないのですから)でしたので、供給側はある程度「作れば売れる」という論理が働きます。1975年あたりからこの発想ではモノが徐々に売れなくなり、どうすれば売れるのかという反省がおき、その際にそれまでの発想を「プロダクトアウト」と呼んだと思われます。商品(product)を市場へ押し出す(push out)する発想というわけです。その際、恐らく同時に「マーケットイン」という言葉が生まれ、それ以降の小売における指針となった訳です。

「マーケットイン」は一言で言えば「売れるものを作って売る」となります。つまり小売主導です。当然のようですが、それまでは「作れば売れる」(供給主導)訳でしたので、あらゆる試行錯誤が80年代から90年代にかけて行われました。ファッションに話を限れば、80年代にはDCブランドと呼ばれる、日本のアパレルが育てたブランドブームが到来しました。これも、市場が何を求めているのかを追求した結果の一つだと思われます。(「ブランド」については別項でご紹介したいと考えています。)また、この時期「マーケティング」という言葉が、経営層の間でもてはやされ、「マーケティング万能」のようなことがささやかれていました。あたかもつい最近まであった「IT万能」神話のようですね。しかし、この「マーケットイン」もバブル経済崩壊後、徐々に通用しなくなります。確かに「売れるものを作る」事は小売の基本ではあるのですが、不況になり、バブル期の熱狂が醒めると、「マーケットイン」の発想も大雑把なマーケティングであったことに、小売側も強制的に気付かされることになります。要するに「売れるもの」を作っているはずが売れなくなってしまったのです。

しかし、バブル経済が崩壊し、不況々々と言われるようになっても、日本の個人資産の総額は1,400兆円(2001年日銀)と言われ、潜在的な購買力は世界2位と言われています(首位はアメリカ)。この眠れるGDPの三倍の金額である1,400兆円(何処にあるんでしょうね(^_^;)という購買力をどうしたら引き出すことができるのか。そのような反省から、「カスタマーイン」という発想が生み出されたと思われます。

「カスタマーイン」とは「個人の要望に沿って作って売る」と定義できます。大雑把に「世代/年収/性別」に消費者をカテゴライズし、それに基づいた商品企画を行うという「マーケットイン」的な方法をもう一歩すすめ、個人の要望に沿って「オンデマンド」で商品を売ることが模索され始めた訳です。しかし、考えてみるとこれは相当難しい要求であるように思えます。来店した顧客が発した「こんなものが欲しい」という要求に「その場で」答える訳ですから、それまでの商売のやり方(ビジネスモデル)では対応できないことは明白です。それに一つの答えを与えたのが『ユニクロ』のファーストリティリングでした。商品カテゴリを「ヤングカジュアル」(の中の廉価なモノ)という狭い場所に絞り、その中で、あらゆる商品を(例えば60色のフリース・ジャケット)揃え、顧客の要求にその場で答えるという「カスタマーイン」の一つの形を実現しました。

ではその他の業態で「カスタマーイン」を実現することは出来ないのでしょうか?

この2年ほど、百貨店紳士服がそれなりの伸びを見せていますが、この中のキーワードの一つとして「パターンメイド販売」という言葉があります。例えば、ワイシャツならば「生地(テキスタイル)」「カラー(襟)」「カフス(袖口)」「シャツの形」などを店頭で顧客に選ばせ、既成のワイシャツよりもほんの僅かな価格上乗せで、その顧客の要望にあったシャツを仕立てるというものです。納期も通常の袖直し程度の期間で仕上がります。この方法はかなり浸透し、紳士服売上増の一つの大きな要員となっています。これなどは、百貨店における「カスタマーイン」の一例と言えるでしょう。また、伊勢丹におけるBPQCは西武系の良品計画(無印良品)への対抗とも位置付けられますが、カテゴリを狭め、その範囲内で考えられるあらゆるものを用意しておくという点では「カスタマーイン」的と言いうると思いますが、どちらかといえばこれは「生活提案型」と呼ばれる手法に近いかも知れません。
このように、供給主導(プロダクトアウト)⇒小売主導(マーケットイン)⇒消費者主導(カスタマーイン)と小売のパワーバランスは変遷してきたと考えられます。
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by seagull_blade | 2004-08-18 16:17 | career
a0012892_13458.jpg前回からだいぶ間が空いてしまったが、ようやく再開できる状況となったのでシリーズを再開させていただくことにする。

さて、前回まで凡そ小売、ことに百貨店における顧客情報の活用について紹介してきたが今回からは『プロダクトアウト』『マーケットイン』『カスタマーイン』『売上仕入』をキーワードにどちらかといえばマーチャンダイジング(MD)側から小売業について紹介したい。

よく言われていることだが、戦後から今までの流通・小売のあり方として「供給側主導から小売主導へ」と変化している。言い換えるとメーカーが「何を売りたいか」ではなく、消費者が「何を買いたいか」に市場動向が依存するようにシフトしてきたということである。供給側(サプライヤー)主導を一般に『プロダクトアウト』と呼び、小売主導のことを『マーケットイン』と呼ぶ。

まず、ざっと戦後の動向を整理すると、1960年代から70年代半ばまでが『プロダクトアウト』の時代であり、市場に供給されるモノは生産者が決定していた。要するに高度経済成長期においてはマーケットのニーズやウォンツが明確であり、消費者は「欧米並みの豊かな生活」を目指していた為、生産者側は「供給量・スピード・確かな品質」という項目に全力を注いできた。「三種の神器」という言葉に象徴されるようにユーザの嗜好は同じベクトルを示していた。

70年代後半から80年・90年代の20年強が狂乱のバブル時代である。このあたりから消費者の志向は多様化してくる。現在に比べればまだベクトルの方向性は同じではあるものの、流行に敏感な世代から「他人とは一寸違う」ことを求め始め、日本のアパレルメーカが育てたDCブランドが幅を利かせてくる。この時代の初期からプロダクトアウトの発想では商品の売上は先細りとなり、マーケティングという言葉が頭をもたげてくる。そして90年のバブル崩壊とともに供給主導も崩壊する。要するに作れば売れる時代は終わってしまったのである。

90年代の「平成不況」時代、デフレデフレと騒がれ、モノが売れない時代と言われ始めた。ようやくマーケット主体の売り方が模索され始める。マーケティング万能的な言い方がなされ、IT(情報システム)もマーチャンダイジング主体のものへと変化してきた。例えば、伊勢丹では「新MDシステム」が93年から稼動を始めている。しかし、買い控え時代は続き、マーケティングをもう一歩深い物にする試みが為され始め、さらに生産から販売までの流れをもう一度見直す取り組みとして「SCM(サプライチェーンマネジメント)」の実現が模索され始めた。この「供給鎖の回転速度」が向上すればマーケットの変動により素早く対処できるという思惑が働いたわけである。

90年代後半から2001年に掛けて、『マーケットイン』の流れの中で「カテゴリーキラー」と呼ばれる企業が台頭してきた。その代表格はなんと言ってもユニクロ(ファーストリテイリング)である。ヤングカジュアルに事業カテゴリを絞り、企画・デザイン・生産・物流・販売の一気通貫の仕組みを作り上げ、強烈なスピードで成長した。SCMどころか、全てを自前でこなすことで、市場の雰囲気が形成されるより更に早く消費者の志向をすぐに商品へ反映してしまうという、このことのもたらす流通業界へのインパクトは大きく、やり方によっては、決してモノが売れないわけではないということを証明した形になった。このような市場動向を超えて個人動向を商品に素早く反映させることを『カスタマーイン』と呼ぶ。

さて、次回はこうした時代背景の中で専門店・百貨店がどのような対応をしてきたのかを具体的に紹介してみたい。
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by seagull_blade | 2004-07-12 13:46 | career
a0012892_115619.jpg前回は顧客・購買情報収集の入り口としてのPOSシステムについて紹介した。情報分析を切り口とするのは今回で終わりとしたいので、もう少しお付き合い願いたい。

さて、大きな意味での消費者とは何であろうか。定義してみると「対価を支払い、最終的に商品を使用する、若しくはサービスを受ける個人/法人」となるだろう。小売業においては「商品を購入して使用する個人/法人」である。小売業態はコンビニ・スーパー・百貨店など様々あるが、どの業態であれ利益を上げる為には「顧客を創り出す」ということが至上命題となる。消費者と顧客は似ているが異なる概念である。英訳するとわかりやすいかもしれない。消費者は「customer / user」となる。端的に買う人・使う人というニュアンスだ。では顧客はというと「account / client」である。こちらは依頼者とも訳せ、より売り手に何かを期待しているというニュアンスが込められている。言い換えると消費者は「一見さん」を多く含むが、顧客は「リピーター」ということになる。当然、売り手にとっては多くのリピーターを抱えるほうが一見さんよりも確実に売上を見込むことが出来る。小売企業が割引優待やポイントバックをしてまで顧客情報を収集し分析する目的は「消費者から顧客へと変換する或いは抽出する」為であると言える。

では具体的にどのような分析を行うのであろうか。ある程度の規模をもった小売企業では情報分析を「販売促進業務」の一環と位置付けている。(勿論その上位には「経営戦略」がある)販売促進活動は「ダイレクトメール」「広告・折込チラシ」「TV・ラジオCF」「サンクスレター」等が上げられるが、例えば「ダイレクトメール」を闇雲に送りつけても一定以上の効果(訴求率と呼ぶ)を期待することはできない。セールなどの催事を行う際、告知用DMを出した場合、一般的にDMの訴求率は3-6%程度である。要するに100人に出した場合は3-6人程度しか来場しないという計算になる。しかしこの数字は顧客情報を分析しターゲットを絞った結果であり、無作為に出した場合は一人もこないということは容易に予測できてしまう。

まず、DMの場合、顧客情報の内、購買履歴に着目する。購買履歴を分析する手法としては「購買分析」「買い回り分析」「クロス分析」などが上げられる。このうち購買分析については第1回で取り上げたRFM分析なので割愛させていただき、「買い回り分析」「クロス分析」に要点を絞って紹介する。

「買い回り分析」は読んで字の如く、ある特定の買い手が商品をどのように比較しながら買物するかを分析する手法である。例えば「自分の洋服を購入した既婚女性がついでに配偶者の紳士用品を買っていくことが多い」という仮説を立てる。そこで、情報分析システムを利用して、「あるブランドの婦人服を買った人でその日の内に紳士靴下を購入した人数を抽出するという分析」を行い、仮説が正しいかを検証する。仮に仮説が正しいとすると買い手が女性であっても「紳士用品のセール」告知DMを出すということも考えられる。或いは「特選婦人服+紳士用品」というようなDMをデザインするという方法も取ることが出来る。こうすることで、そのDMや広告媒体の訴求率(訴求力)をより高くしていく手法が「買い回り分析」である。

「クロス分析」はエクセルのようなマトリックスをイメージすると解り易い。縦軸と横軸を取り、それがクロスするデータを抽出するやり方である。例えば2004年5月中にある百貨店のAブランド婦人服を購入した人の年代はどうなっているのかを分析するには、まずある百貨店の2004年5月の購買情報を抜き出す。このデータから縦軸をAブランドの商品、横軸を年齢(例えば5歳毎のピッチ)で抽出する。すると5月におけるAブランドの商品・購買年齢層相関図ができあがる。この集合をさらに「住所」を使用した「商圏分析(どの地域に購買層が多いか)」などにかけるなどして、最も効果が上がるようにDMや折込チラシ広告を実施する。

情報分析システムは購買者を一般客から最重要顧客までを階層分けし、それぞれの潜在的欲求を仮説を元に分析し、予想するために考え出されたものである。その仮説に従ってあらゆる広告が考えられ、作られている。
「軍の指揮官にとって、最も重要な資質はなにかと問われれば、想像力である、と答えよう。この資質の重要性は、なにも軍の指揮官にかぎらない。いかなる職業でも、想像力なしにその道で大成することは不可能だからである 『マキアベリ:戦略論』」
マキアベリのこの指摘は小売業にとっても真理であろうと思う。特に販売促進取分け潜在顧客の顕在化という作業においては最も重要なポイントであろう。

次回の「小売とマキャベリズム」は顧客情報から離れ、別の切り口で展開しようと考えています。よろしくお付き合いください。
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by seagull_blade | 2004-06-15 11:57 | career
a0012892_131941.jpgニコロ・マキアベリ(1469-1527)はルネサンス期のフィレンツエ共和国外交官である。彼は『IL PLINCIPE(君主論)』に代表される著作の中でユニークな政治思想を論じている。「目的が正しければ手段は常に正当化されるのである(君主論)」など一種の性悪説・悪の肯定ともとれる論考を行い、政治(手法)と倫理を切り分けて論じた。その為「マキャベリズム」は理想主義の対極に位置するものとされ、プロイセン王フリードリヒ2世の「アンチ=マキャベリズム」を始めとして悪の政治の代名詞として非難されて来た。アメリカなどは自らの政治を「アンチ=マキャベリズムの伝統」などと称している。(笑止千万)

だが現実に多くの物事がマキャベリズムで動いている。「どのようにすれば最大の効果を上げることができるのか?」「どのようにすると最悪の結果を招いてしまうのか?」ということを倫理・道徳を含めたあらゆるしがらみから自由に考えることそのものがマキャベリズムだからである。さて、このシリーズは流通業界とITなので、マキャベリの話は他に譲って本論に入りたいと思う。

前回はパレートの(2:8)法則、CSM(顧客階層分マーケティング)、RFM指標をキーワードとして小売業界でのカード(クレジット・ポイント)戦略の簡単な紹介を行った。今回はPOSシステムを中心として顧客情報収集の具体的な方法を紹介したい。

POSシステムはPoint Of Sales system の略称であり、「販売時点管理システム」などと訳されることもある。一般にPOSレジと呼ばれるコンピュータ化されたレジスターはこの「POSシステム」の一部である。レジの歴史は意外と古く、日本においては明治33年(1897年)に横浜の貿易商である牛島商会がアメリカのナショナル・キャッシュ・レジスター社から輸入したのが最初とされている。同社は後にNCR社となり、現在でも百貨店を始めとして多くの小売業界でその製品が使用されている。POSレジはこれらレジスターとコンピュータを組み合わせ、商品を店頭で販売する毎に商品の販売情報を記録・集計する為の最初の入り口(インターフェース)となるものである。

POSレジで入力された情報は、オンラインでサーバ内のデータベースへ記録される。POSレジで収集できる情報は多岐にわたる。「商品情報」の他に、「購買金額」「時間帯」「店舗」「売場」「販売担当者」などが現金や金券で顧客が買物をした際に掴むことが出来る情報である。だが、これだけでは「誰が買ったのか」は解らない。そこでクレジットカード情報やポイントカード情報を組み合わせてみる。すると先ほどの情報に加えて「個人名」「性別」「年齢」「住所情報」「電話番号」「家族構成」などを得ることが出来る。すると最初の情報である「商品情報」から「商品種別」「ブランド」「サイズ」などが意味を持ち出す。個人が特定できればその顧客の嗜好や買物パターンを分析することが可能になる。これだけの情報を得ることができるなら、ある程度の規模をもつ企業であれば、ポイントバックやカード優待など安いものである。最近では「e-mailアドレス」もこれらに加えて良いかもしれない。

クレジットカードやポイントカードの入会時に「ご入会伝票」のような物へ「住所情報」や「電話番号」「家族構成」などを記入したことがある方も多いだろう。これらの情報もすぐさまデータ化されデータベースに取り込まれる。そしてそれらを利用して買物をすると小売側は上記のような情報を収集することができ、分析することが可能となる。こうした個人を特定して分析しマーケティングすることを「One To One マーケティング」と呼ぶ。One To Oneなどと呼べばなんとなく聞こえは良いが、買物を楽しんでいる際にこうした情報が自動的に集計されていると考えるとなかなか不気味ではある。

こうして収集された購買情報・顧客情報を元に前回紹介したRFMなどを利用して様々な切り口で顧客の階層化(セグメンテーション)を行う。セグメンテーションの過程がまさにCSMと呼ばれるのである。

これらの情報を利用してTVCFやチラシ・ダイレクトメールなどの宣伝活動、商品買い付け、仕入れなどのマーチャンダイジング(MD)をより効率化していくのである。POSシステムはそれらの入り口という点で小売システムの中で最も重要なシステムである。それ故にIT化の遅れている小売業では「まずPOSから」の導入が常識となっている。勿論上記のような情報系と呼ばれるシステム以外にもレジスターとして金銭の出納・集計・精算・営業日報の作成などさまざまな基本的な機能(基幹系と呼ぶ)もPOSシステムは支えている。

次回は集められた情報をどのように分析してその後の販売に生かすのかを筆者の知っている範囲で紹介してみたい。
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by seagull_blade | 2004-06-08 13:20 | career
a0012892_194547.jpgここ4、5年ポイントカードという仕組みをよく耳にするようになってきた。大手家電量販店やレンタルビデオ、マイレージなどのポイントバックやキャッシュバックの優待を受けることが出来るアレである。また、特定のクレジットカードを利用すると割引優待が受けられるサービスもハウスカードなどを持っている百貨店などでよく見かける。利用している側としては一種の顧客還元の一つと考えている方が多いだろう。決して間違いではないが、ただそれだけのことではない。少し企業側の思惑について記してみたい。

「2:8の法則」という言葉をご存知だろうか。イタリアの経済学者パレート(Vilfredo Pareto 1848-1923)がパレートの法則として提唱した考え方である。マーケティング用語としてよく出てくるが、要するに「重要なものは僅かしかない」という考え方である。本来は所得分布を説明するもので、上位2割の所得者が全体の所得の8割を占めるという一種の経験則なのだが、現在では所得以外でも応用可能と考えられ様々な分野のコンサルタントや販売促進でも利用されている。

例えば、「ある企業の営業部門の成績を説明する場合、営業成績上位2割の人間が売上全体の8割を占めるが、仮にこの2割を別の部署に移動させたとしても残された営業部門でまた2:8の法則が働き、2割が成績を伸ばし売上全体の8割を占めてしまう。」などとまことしやかに語れる便利な言葉である。

流通業界、取分け小売業界においては「2:8の法則」は顧客の切り分けに多く用いられる。勿論「2割の顧客が全体の8割の売上を占める」という考え方である。そもそも経験則なのだから厳密には疑わしい部分があるが、ある程度の信憑性は持っていると考えられる。特に高額商品を扱う小売になればなるほどこの法則に支配される傾向があるといえる。この考え方に基いて企業は顧客分析を行う。これをCustomer Specific Marketing(CSM)と呼ぶ。顧客による売上貢献度から顧客のランクを決定し、それぞれの階層毎にアプローチの方法を変えることでより効率的に売上を上げようとする試みである。ではどうやって階層を分けていくのであろうか。

流通小売業界では古典的な切分指標としてRFMという基準を用いることが多い。Rはrecency : リーセンシーで、最近の購入であるかどうか。Fは frequency : フリークエンシーで、頻度はどうか。Mはmonetary-value : マニタリ・バリューで、購買金額がどうかということである。これらを例えばポイント制にして顧客ごとに設定し、その総和をランク付けすることで顧客の階層化分析を行うことが可能になる。また取扱商品や業種によって、RFMの内、それぞれの重要な項目に重み付けを行い(例えばそれぞれの通常最大値を5とし、重みを2とすると、3ポイントの顧客は5ポイント、5ポイントの顧客は7ポイントとなる)応用して分析する。つまりこれらの頻度が高ければ高いほどCSMにおける上位層とランクされるということである。

更にRFMはどの指標ポイントが高いかでどういう顧客なのか詳細に分析できるが、ここはマーケティングのブログではないので割愛させていただく。ご興味のある向きは「RFM」をキーワードにして検索していただくと山ほど引っかかる(Googleの日本語ページで凡そ3,800件)ので、参考にしていただきたい。

RFM指標に基いたCSM分析は上述したようにある程度古典的な手法であり、かつては膨大な顧客データを「大福帳」として帳面に付け、手計算や大雑把な経験と勘を用いて利用していたが、こうした分析がIT/コンピュータが得意とする分野であるのはすぐに想像できるであろう。データ入力さえ行えば、上記の計算システムはさほど複雑ではない為すぐに実現可能である。現在主流の顧客分析システムパッケージソフトではCSMをCRM(Customer Relationship Management:顧客関係性マネジメント※次回以降詳説)と絡めて販売していることが多い。それらは多くの機能を既に用意してあるのだが、導入時に必ず問題になることがある。それはどうやって顧客データ(個人データ・購買データetc)を入手・入力するのかという事である。

冒頭に記したポイントシステムやクレジットシステムはここに繋がってくる。ある程度の出血を覚悟してでも自動的に会員データが溜まり、加工可能な状態を現出することの出来るカードを利用したシステムはどうしても小売が欲しい情報なのだ。これらの集められた情報はCSMやRFMに使用されるだけでなく、様々な企業活動に使用される。次回からはこうしたデータを具体的な収集方法、更にどのように活用するかを概説してみたいと考えている。


※『革命と反動』と題してきた流通業界とITシリーズは今回より『小売とマキャベリズム』シリーズとして作成したいと考えているので宜しくお付き合い下さい。
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by seagull_blade | 2004-06-04 19:46 | career