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by seagull_blade

弁財天。(江ノ島紀行)

『七里ヶ浜の磯伝い 稲村ヶ崎 名将の 剣 投ぜし 古戦場』唱歌「鎌倉」の一節である。夏の終わりに機会を得て江ノ島・鎌倉へ日帰り。とは言え、東京在住の筆者からするとそう遠くはないのだが、マリンスポーツには縁が無い為に混み合っている夏に行ったことは無かった。今回は新江ノ島水族館&江ノ島・鎌倉観光という組み合わせだったので、悪くない休日を過ごすことが出来た。冒頭の唱歌「鎌倉」はどういうわけか筆者の子守唄だったので、鎌倉から江ノ島へ移動した江ノ電の中でずっと頭の中で廻っていた。(因みに筆者も筆者の両親も鎌倉とは殆ど縁がない)

水族館でイルカのショー(初めて生で見たがイルカの芸達者振りと運動神経はすごい。)を見物してから、「サザエが食べたい」ということで昼食のために江ノ島へ。快晴の上、島へは初めてで、更に三大弁財天の一つ「江ノ島弁財天」を見ることが出来るため、気分よく江ノ島の橋を渡った。渡ってすぐにある食事処で「サザエ丼と焼きハマグリ」を「江ノ島ビール」を飲みながら美味しく頂いたあと腹ごなしに海岸へ出て、一寸だけ磯遊び。筆者は全く予定していなかったのでビーチサンダルすら持っていなく、同行した方に急遽買ってきて貰うという体たらく。少し気を取り直して江ノ島弁財天へ。
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弁財天には、縁切りと縁結びという矛盾した性格がある。井の頭公園や上野不忍池、そしてこの江ノ島でデートをすると必ず分かれるという噂話をよく耳にする。(TDLもそうだが…)この3箇所の共通点は、水辺であり、弁財天が祀られているということだろう。今回、筆者に同行してくれた方は女性だが、残念ながら恋人では無いので何の気兼ねも無く弁財天へ向かった。しかし現在でも都市伝説や噂話として久力を保っているこうした弁財天に惹かれ、少し調べてみることにした。

弁財天といえば何を連想するだろうか?七福神の一柱としてよく描かれる美しい女性が琵琶を抱えた姿だろうか。あるいは商売繁盛のシンボルだろうか。弁財天が祀られている場所は上述したように「水辺」である。弁財天はもともとインドの「サラスバティ」という女神であった。サラスバティはインダス河の神であり、母なる河の神格化であったようだ。河川の神格化は東洋においては「龍神」の形をとることが多い。弁財天も勿論女神であると同時に龍神である。弁財天が祀られた神社や祠に出かけることがあれば、注意して頂くと、必ずと言って良いほど龍神の彫像や絵がある。母なる河も一度怒れば、洪水などのどうにもならない天災を招く。そうした荒々しい面をこの龍神が表していると考えられる。

鎌倉時代から戦国にかけての日本の中世は戦乱の時代だったが、弁財天は戦いの神としても人気がある神であったようだ。江ノ島へ弁財天を勧請したのは源頼朝であるし、織田信長や上杉謙信もそれぞれに信仰していたらしい。真言密教を奉じていたと言う上杉謙信は分かるが近代的合理主義者と考えられている織田信長までも信仰しているのはちょっと驚きである。七福神の一柱としての弁財天は、たおやかに琵琶を抱えて微笑んでいる。だが、古式の弁財天像は八臂(4対の腕)に輪宝(りんぽう)を除いて、弓・矢・剣・宝珠・矛(ほこ)・長杵(しょ)・鍵棒という武器を持ち、如何にも戦女神あるいは鬼神の雰囲気を漂わせている。なお、江ノ島弁財天も木造の彩色八臂弁財天坐像が納められている。(今回は観なかったが)この弁財天は日本に入ると吉祥天や市寸島比売命(イチキシマヒメノミコト)と同一視(習合)される。江ノ島弁財天においても中津宮に祀られている。

イチキシマヒメはスサノオの娘であるが、スサノオと言えば牛頭天王(ごずてんのう)と同一視される神であり、牛頭天王は京都八坂神社の祭神であった。牛頭天王は疫病を防ぐ神(薬師如来の化身とされる)だが、元々は牛頭鬼(ごずき)という地獄の獄卒である。馬頭鬼(めずき)と合わせて牛頭・馬頭と呼ばれ、それぞれ読んで字の如く牛の頭を持つ鬼、馬の頭を持つ鬼の姿で表される。神仏習合の文化である日本においては『スサノオ=薬師如来=牛頭天王=牛頭鬼』という構図が成立するようだ。かつての人々は、本来、鬼であり、疫病を運ぶ羅刹であった牛頭鬼を疫病から守る牛頭天王として祭り上げることによって、無害化・有益化を図ったのかも知れない。

さて、江ノ島には天女と五頭龍(ごずりゅう:読み方に注意)の伝説が残されている。腰越という地名が鎌倉に残っているが、かつては「子死越」であり、五頭の暴れ龍が鎌倉は腰越の底なし沼に住み、子供を人身御供として要求する悪神であった。人々が困り果てていたある日、天地の震動とともに海上に島が現れ(これが「江ノ島」)、島には天女が舞い下りた。五頭龍は天女の美しさにすぐに結婚を申し込んだ。天女はそれに対して交換条件を出す。「この地を守る龍となるならば結婚しよう」と。この天女こそ、妙音弁財天(水のせせらぎから音楽の女神でもある)であって、五頭龍は腰越に五頭龍大明神として祀られる存在となった。音で分かるように五頭龍は「牛頭鬼(天王)」であり、同時に弁財天の夫でもある。あたかも牛頭鬼が牛頭天王になったように、五頭龍は五頭龍大明神となった。前述したが龍は弁財天の化身でもある。

この夫婦はそれぞれ「江ノ島弁財天」と「五頭龍大明神」を夫婦社として祀られているが、どういう訳か、60年に一度、1ヶ月しか合うことを許されていない。それぞれの神社のご開帳が60年に一度であり、直近では1989年に行われた。すると次回は2049年と言う事になる。神であるから当然、不死とはいえ、60年に一度しか遭う事のできない夫を弁財天はどのように思っているのだろう。カップルで参拝する恋人たちを弁財天はどうみているのだろう。これが彼女が「縁結び」であり「縁切り」である理由であると思う。
江ノ島神社で引いた御神籤は『大吉』であった。独り身の筆者に、弁財天は少しだけ微笑んでくれたのかもしれない。
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by seagull_blade | 2004-09-03 20:10 | bizarro life