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by seagull_blade

流通業界とIT。『小売とマキャベリズム6』

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今から独立して商売、特に「仕入れて売る」という小売業を生業にしようと考えたとする。当然、資金集めや取引先の決定、会社登記をはじめとする様々な手続きをしなくてはならない。まずは、簡単でもよいから事業計画を作成しなくてはならない。事業計画書を銀行等の資金提供者に持っていったとする。様々な突っ込みが入るだろう。事業ビジョン。計画。そして、貸し手としては貸し倒れが最も恐いことなので、リスク管理も厳しく問われるだろう。小売において特徴的なリスクとはなんであろうか。

運転資金のリスク、事業計画そのもののリスクは勿論だが、小売業で最も恐いリスクの一つは「不良在庫」を抱え込むことである。仕入れたものの売ることが出来ず、倉庫に山積となった不良在庫。これは恐ろしい。INがあってOUTがない、StockはあってもそれがGainにならない。どこの小売業者もあらゆる方法を使ってこの状況を回避しようとしている。POSシステムを導入して、「売れ筋」「死に筋」を測定したり、徹底した在庫管理で、欠品⇒発注⇒検収⇒売場という流れを自動化するケースもある。これらは業務効率化など多くの意味があるものの、究極的には不良在庫を抱え込まないということを目的としている。

さて、不良在庫を抱え込むというリスクを一切負う必要が無い経営形態があると言ったら、信じられるだろうか。仕入れた以上、売れないというリスクは必ず発生する。そんなことはありえない。普通はこのように考えるのではないだろうか。筆者も流通系システム会社へ入社するまではその様に考えていた。だが、実際にそのようなビジネスモデルはあるのだ。やはり言わずと知れた「百貨店」である。

百貨店には「売り仕(うりじ)」という言葉がある。これは「売上げ仕入れ」の略語である。「消化仕入れ」とも言う。まさに読んで字の如しであって、これは「売上げた分のみ仕入れた事にする」という会計上のマジックである。つまり、商品を調達して売場に並べていても、売れるまでは卸側の在庫にしておき、売れた途端に大至急仕入れ計上を行い、同時に売上げを立てる。こうすることで、売れ残りの損失、価格下落による被害、品痛みなどのあらゆるリスクは、百貨店側にとっては消滅し、リスクフリーの経営が可能となるというものである。勿論このリスクはどこかが持たねばならない。当然この場合は御元やメーカが負うことになる。

「そごう」が破綻した際、新聞紙面にも「消化仕入れ」や「場所貸し」といった言葉が踊ったことを覚えていらっしゃる方もおられると思う。世論でも「消化仕入れけしからん」という風潮があった。確かに圧倒的に小売(百貨店)有利なこの仕入れ形態だが、それならば、なぜこのようなことが許されているのかを考察してみたい。

あらゆる物事にはプラスとマイナスの面がある。「売上げ仕入れ」の場合も考えてみよう。まず、百貨店にとってのプラスははっきりしている。不良在庫リスクを一切負わないということである。上述の通り、これには計り知れないメリットがある。売れ残り・流行遅れによる陳腐化・品痛みなどあらゆるリスクが解除される。いいこと尽くめのようだが、当然マイナスの要素もある。百貨店構造不況などと言われ、そごうを始め大手百貨店の苦境が話題となった時期があったが、このそもそもの原因は「ノーリスク」での仕入れをおこなったことである。「百貨店は場所貸しの不動産業だ」などと言われたそもそもの原因はここにある。

とはいえ「場所貸しの不動産業」という批判は単に「テナント」へ場所を貸与するというだけという意味であったが、これでは不動産業に対して失礼であり、浅薄な批判である。実際にはプロダクト・アウト(供給主導)の構造が崩れ、マーケット・インやカスタマー・インという構造に移行した80年代から流通業界は圧倒的小売主導になった。供給側(ベンダー)は本来、小売側が負うべきリスクを負ってでも店頭に品物を置いてもらうことに腐心し、その結果として、「売り仕」構造(元々あったが)が固定化されてしまった。

しかし、小売側の百貨店にも致命的な影響が出ている。全てのリスクをメーカで負うということは、百貨店側の企画・開発・販売の能力を相対的かつ総体的に落としてしまう結果となった。百貨店の構造不況のポイントはここにあると筆者は考えている。遅まきながら多くの百貨店ではこのことに気が付き、売り仕ではない「買取」の商品を増やし、自主企画商品や自社ブランドを創造し、リスクを取って能力を向上させるという方向に出ている。「三越グループ」の「脱百貨店」というスローガンもこのノーリスクでの商売が、構造的な低利益を生み出していることへの反省であろう。勿論、三越に限らず、自主MDをどこの百貨店でも進めている。

そごうの破綻は勿論、水島元会長による独裁的放漫経営も大きな原因だったであろう。しかし、リスク回避による仕入れ、ベンダーへの強度の依存という体質も、もう一つの致命的な原因であったと筆者は考える。

別段、この問題はそごうに限らない。どこの百貨店でも同様である。自社の企画力、マーチャンダイジング力を高め、月並みではあるが「他には無い」価値をつけていくこと。今のところ、それ以外に解決策は見出せないのでは無いだろうか。百貨店は「マーケット・インの構造」というベンダーにあらゆるリスクを負わせるほどの強力な立場を、別の方向に見出す必要を感じているであろう。その回答を見つけることも、価値の創造とともに最優先すべき経営課題である。
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by seagull_blade | 2004-11-17 22:12 | career